
こんにちは。
中小企業診断士の合格を目指して学習に励んでいる皆さん、過去問演習は順調でしょうか?
先日、私も力試しに平成28年度の「事例Ⅱ」に挑戦し、専門家の方に厳しく採点していただく機会がありました。
そして、返ってきた点数は…「52点」。
正直、ショックな結果でした。しかし、同時にいただいた詳細なフィードバックは、自分に何が足りていないのか、合格答案には何が必要なのかを浮き彫りにしてくれる、まさに「宝の山」でした。
今回は、この悔しい結果をただの失敗で終わらせないために、私の不合格答案と、そこから見えた課題、そして合格レベルに到達するための改善策を全て公開しようと思います。
同じように事例Ⅱで伸び悩んでいる方、自分の答案のどこを改善すれば良いか分からないという方の、何か一つでもヒントになれば幸いです。
これ以降は実際にフィードバックいただいた内容をそのまま記載しています!
| 設問番号 | 解答(要約) | 評価点(配点) | 主な評価点 | 主要な改善点 |
| 第1問 | 同業他社分析に基づき、高付加価値な最終消費者向け製品に特化。 | 8 / 20 | ・高付加価値戦略 ・最終消費者向け特化 という方向性は正しい。 | ・「同業他社を分析し」は与件の趣旨と異なる。 ・大手追随による多品種化という戦略性の欠如(弱み)の指摘が不可欠。 |
| 第2問(1) | ターゲットは外国人観光客、女性、シニア層。製品は醤油関連製品に集中。 | 10 / 20 | ・ターゲット層を複数挙げようとする試み。 ・既存製品をベースにする視点。 | ・ターゲットの定義が広範かつ与件との結びつきが弱い。 ・製品戦略が「集中」というだけで具体性に欠ける。 |
| 第2問(2) | 観光情報誌等でプロモーション。飲食店での食事から購買を促進。 | 10 / 20 | ・飲食店と直営店の連携(インストアプロモーション)に着目できている。 | ・(1)で設定したターゲットとの連動性が低い。 ・「体験価値」という戦略的視点が欠けている。 |
| 第3問 | メリットはニーズ収集と味の認知。効果は製品開発への活用と販売増。 | 8 / 20 | ・ニーズ収集という情報収集機能に着目できている。 | ・「売上向上以外」という制約条件を逸脱している。 ・メリットと効果の切り分けが曖昧で、ブランド構築の視点が弱い。 |
| 第4問(1) | 国産丸大豆と杉桶を強みとし、大手と差別化する高付加価値戦略。 | 6 / 20 | ・B社の強みを認識している。 | ・設問の要求(ネット販売のブランド戦略)を誤解し、企業全体の製品戦略を記述している。 |
| 第4問(2) | SNSで双方向コミュニケーションを図り、レシピ配信でリピート率向上。 | 10 / 20 | ・双方向コミュニケーションの重要性を認識している。 | ・「配信」は一方向的であり、「双方向」の具体策が欠けている。 ・コミュニティ形成という視点が不足。 |
| 合計 | 52 / 100 |
第1部:提出解答の詳細な採点と分析
第1.1節:第1問(B社のこれまでの製品戦略)
解答 同業他社を分析し、様々なジャンルやサイズの国産丸大豆を原材料とした高付加価値な製品をそろえており、最終消費者向け製品に特化した製品戦略を採用していた。
評価:8点 / 20点
分析と改善点 この解答は、「国産丸大豆」「高付加価値」「最終消費者向け」といった与件文中のキーワードを捉えていますが、B社の製品戦略の本質的な特徴と課題を的確に整理できているとは言えません。
最大の問題点は、「同業他社を分析し」という記述です。これは、B社が計画的・戦略的に製品開発を行っていたかのような印象を与えますが、与件文の文脈からは、むしろ大手メーカーの新製品に追随する形で、計画性なく製品ラインアップを増やしてきたという「弱み」が読み取れます 。この点は、多くの予備校の模範解答でも指摘されている重要なポイントです 。B社のこれまでの戦略を評価する際には、強み(こだわり)と弱み(戦略性の欠如)の両側面を記述する必要があります。
また、「様々なジャンルやサイズ」という表現も、B社の戦略の「多品種化」という側面を捉えていますが、それが計画性のない「多角化」であったというネガティブなニュアンスが欠けています。
高得点答案への改善指針 合格答案を作成するためには、与件文の情報を構造的に整理し、B社の戦略の光と影を明確に描き出す必要があります。具体的には、以下の要素を盛り込むべきです。
- 強み(差別化要因): 「国産丸大豆」や「杉桶による伝統製法」といった、品質へのこだわりを明確にする 。
- 弱み(課題): 大手メーカーに追随する形で、しょうゆ関連製品を無計画に増やしてきた「多品種化」戦略と、それに伴う経営資源の分散を指摘する 。
- 事業領域: 「最終消費者向け」に特化してきたという事業ドメインを記述する。
これらの要素を統合し、以下のようなモデル解答が考えられます。
【モデル解答】 ①国産丸大豆と伝統製法に拘った高付加価値な醤油と、②醤油をベースにした多品種の関連製品で構成。大手追随で品揃えを増やしたが、最終消費者向けに特化していた。
第1.2節:第2問(1)(今後の成長に必要な製品戦略とターゲット層)
解答 ターゲット層は、日本の伝統に興味のある外国人観光客や懐かしさを求める女性やシニア層である。製品戦略としては、天然醸造しょうゆや減塩しょうゆをベースとしたしょうゆ関連製品への集中である。
評価:10点 / 20点
分析と改善点 今後の成長戦略を問う本設問に対し、ターゲットと製品戦略の両面から答えようとする構成は適切です。しかし、それぞれの内容の解像度が低く、戦略としての説得力に欠けます。
ターゲット層の定義に大きな課題があります。「外国人観光客」は、当時のインバウンド需要の高まりを背景とした発想かもしれませんが、与件文中にそれを直接支持する記述は乏しいです。安易に時事的なトレンドに飛びつくのではなく、あくまでB社の強み(国産、伝統、高品質)に最も響く顧客層は誰かを考えるべきです。多くの予備校が「食に敏感」「健康志向」「本物志向」といった心理的・行動的変数(サイコグラフィック)でターゲットを定義しているのは、それがB社の強みと直接的に結びつくからです 。ご提案の「女性やシニア層」という人口動態変数(デモグラフィック)による区分は、具体的さに欠け、戦略の精度を下げてしまいます。
製品戦略についても、「しょうゆ関連製品への集中」という記述は曖昧です。第1問で指摘したように、B社の課題は無計画な多品種化でした。したがって、今後の戦略は単なる「集中」ではなく、不採算製品を整理し、B社のブランド価値を最も体現する中核製品(伝統製法の醤油など)に経営資源を再配分する「選択と集中」であるべきです。
高得点答案への改善指針 今後の戦略を立案する際は、「誰に(Target)」「何を(Product)」を、B社の強みと市場機会を基に、より鋭く定義する必要があります。
- ターゲット層の再定義: 人口動態だけでなく、「食の安全や健康、本物志向に関心が高いこだわりを持つ消費者層」のように、価値観やライフスタイルで定義する。これにより、プロモーション戦略(第2問(2))やコミュニケーション戦略(第4問(2))が立てやすくなります。
- 製品戦略の具体化: 「選択と集中」の観点から、「伝統製法による高品質な醤油製品群に絞り込み、ブランド価値を向上させる」といった、より具体的な方針を打ち出すべきです。
【モデル解答】 ターゲットは食の安全や健康、本物志向に関心が高いこだわりを持つ消費者層。戦略は、多品種化した関連製品を整理し、国産丸大豆と伝統製法による高品質な醤油製品群に絞り込むことで、ブランド価値を向上させる。
第1.3節:第2問(2)(プロモーションと販売戦略)
解答 プロモーションは、観光情報誌やグルメサイトでしょうゆを使ったレシピの紹介や直営店を紹介する。販売戦略は、併設する飲食店で定食を食べてもらい、しょうゆの購入を進める。
評価:10点 / 20点
分析と改善点 この解答は、飲食店と直営店の連携という重要な資産に着目しており、その点は評価できます。これはインストアプロモーション(ISP)の考え方に通じます 。しかし、戦略としての深みと、前問(第2問(1))との一貫性に課題があります。
プロモーション媒体として「観光情報誌」を挙げている点は、第2問(1)で「外国人観光客」をターゲットとしたことと連動していますが、そのターゲット設定自体の妥当性が低いため、このプロモーション施策も的を射ているとは言えません。ターゲットを「食へのこだわり層」と再設定した場合、アプローチすべき媒体は「グルメサイト」や専門誌、あるいは食に関するインフルエンサーのブログなど、より専門性の高いメディアになるはずです。
販売戦略の「定食を食べてもらい、しょうゆの購入を進める」という記述は、現象をそのまま述べているだけで、戦略的な意図が伝わりません。現代の成功している伝統産業の事例を見ると、併設された飲食店やカフェは、単なる販売促進の場ではなく、ブランドの世界観を伝え、製品の価値を深く理解してもらう「体験の場」として機能しています 。B社の飲食店も、単に食事を提供するだけでなく、醤油のテイスティング、製造工程の紹介、限定メニューの提供などを通じて、「体験価値」を提供し、顧客の感動を購買につなげる装置として位置づけるべきです。
高得点答案への改善指針 プロモーションと販売戦略は、第2問(1)で定義したターゲットに「何を」「どのように」伝えるかという視点で具体化する必要があります。
- プロモーションの一貫性: ターゲット(食へのこだわり層)が接触するであろう媒体(専門Webサイト、SNS等)で、B社の強み(製法、歴史、職人の想い)を訴求する。
- 販売戦略の体験価値化: 飲食店を「ブランド体験の拠点」と位置づける。単なる食事提供ではなく、「試食」「実演」「限定メニュー」などを通じて製品の良さを五感で実感させ、納得感の高い購買へと導くストーリーを設計する。
【モデル解答】 食に関心の高い層が閲覧するWebサイトで、醤油の製法やこだわりを発信する。販売は、直営店の飲食店で試食や料理提供を通じた体験価値を提供し、製品の良さを実感させ購買に繋げる。
第1.4節:第3問(飲食店のメリットと効果)
解答 メリットは、顧客のニーズを直接収集できることやB社のしょうゆの味を知ってもらえることである。効果は、収集したニーズを分析し製品開発に活用できることやついで買いにより直営店での販売数量増加に寄与することである。
評価:8点 / 20点
分析と改善点 本設問には「売り上げが向上すること以外の」という極めて重要な制約条件があります。ご提出の解答の「ついで買いにより直営店での販売数量増加に寄与する」という部分は、この制約条件に明確に違反しており、大幅な減点対象となります。設問の制約条件を正確に読み取り、遵守することは、診断士試験における最も基本的な要件です。
その点を度外視しても、解答全体が表層的です。「顧客ニーズを直接収集できる」「味を知ってもらえる」というメリットの指摘は正しい方向性ですが、より戦略的な次元に引き上げて記述することが求められます。
例えば、「ニーズ収集」は単なるアンケート機能ではありません。顧客との対話を通じて、潜在的なニーズを探り、新製品のアイデアを得る「リアルタイムなマーケティング・リサーチ拠点」としての機能です。また、「味を知ってもらう」ことは、単なる試食(サンプリング)に留まりません。料理として提供することで、製品の多様な使い方を提案し、顧客の食生活を豊かにする「情報発信・ブランドコミュニケーション拠点」としての機能です。
さらに、設問は「メリット」と「効果」を分けて問うています。これは、直接的な利点(メリット)と、それがもたらす間接的・長期的な成果(効果)を区別して論理的に説明する能力を試すものです。ご提出の解答ではこの区別が曖昧です。
高得点答案への改善指針 制約条件を遵守した上で、「メリット」と「効果」を明確に区別し、飲食店の持つ多面的な機能を戦略的に記述する必要があります。
- メリットの再定義(機能面):
- 情報拠点機能: 顧客の生の声(ニーズ、評価、クレーム)を直接収集するアンテナショップとしての役割。
- ブランド発信機能: 杉桶や製法、歴史といったB社の「こだわり」や「物語」を伝え、ブランドイメージを向上させるショールームとしての役割。
- 効果の再定義(成果面):
- 製品・サービス改善: 収集した情報を製品開発やサービス改善に活かし、顧客満足度を向上させる。
- 顧客のファン化: ブランドへの共感や信頼を醸成し、単なる購入者から、B社を応援してくれるロイヤルカスタマー(ファン)へと育成する。
【モデル解答】 メリットは①顧客ニーズや評価を直接収集できる情報拠点機能と、②製法や歴史等のこだわりを伝えられるブランド発信機能。効果は①収集情報を製品開発やサービス改善に活かすことと、②ブランドへの共感や信頼を醸成し、顧客のファン化を促進すること。
第1.5節:第4問(1)(インターネット販売のブランド戦略)
解答 大手メーカーと差別化するため、国産丸大豆と杉桶を使ったしょうゆを強みとし、高付加価値戦略を図る。
評価:6点 / 20点
分析と改善点 この解答は、設問の意図を根本的に取り違えています。設問が問うているのは「インターネット販売を軌道に乗せるためのブランド戦略」であり、B社の企業全体の製品戦略や競争戦略ではありません。ご提出の解答内容は、B社の基本的な戦略方針を述べたものに過ぎず、なぜそれが「インターネット販売」という特定のチャネルにおいて有効なのか、という点への言及がありません。
インターネット販売の特性は、物理的な接触がない代わりに、豊富な情報を提供できる点にあります。したがって、オンラインでのブランド戦略の核心は、B社の製品が持つ「こだわり」や「物語」といった無形の価値を、いかにデジタルコンテンツに変換して顧客に伝えるか、という点にあります 。例えば、「職人醤油ストア」のように、製品の背景にあるストーリーや作り手の顔を見せることで、高価格を正当化し、顧客の共感を呼ぶ戦略が有効です 。
ご提出の解答は、B社の強み(国産丸大豆、杉桶)を挙げていますが、それをインターネット上で「どのように」ブランドとして訴求していくのか、という戦略が完全に欠落しています。
高得点答案への改善指針 「チャネル(インターネット)の特性」と「B社の強み」を掛け合わせ、具体的なブランド戦略を提案する必要があります。
- ブランドコンセプトの明確化: インターネット上では、B社をどのようなブランドとして位置づけるかを定義する。例えば、「伝統製法を守り続ける職人が作る、本物志向のプレミアム醤油ブランド」といったコンセプトです。
- 訴求内容の具体化: そのブランドコンセプトを伝えるために、どのような情報を発信するかを考える。「杉桶を用いる伝統製法」「職人のこだわり」「X市の食文化との繋がり」といったストーリーを、写真や動画を交えて訴求する。
- 戦略の目的: このブランド戦略によって、大手メーカーとの価格競争を回避し、高品質・高価格を正当化するという目的を明確にする。
【モデル解答】 杉桶を用いる伝統製法や職人のこだわりといった物語を訴求し、高品質・高価格を正当化するプレミアムブランド戦略を採る。
第1.6節:第4問(2)(リピート促進のマーケティング・コミュニケーション)
解答 SNSを開設して双方向のコミュニケーションを取り、顧客に合わせた健康メニューやX市の伝統料理のレシピを配信し、愛顧を高め、リピート率を向上させ、売り上げ拡大を図るべき。
評価:10点 / 20点
分析と改善点 この解答は、「SNS」や「双方向コミュニケーション」といったキーワードを含んでおり、方向性としては正しいです 。しかし、その具体策が「レシピを配信し」という一方向的な情報発信に留まっており、冒頭で掲げた「双方向」というコンセプトと矛盾しています。この論理的な矛盾が、評価を大きく下げる要因となっています。
真の「双方向コミュニケーション」とは、企業が一方的に情報を流すのではなく、顧客からの反応を受け止め、対話し、顧客同士の交流を促す活動を指します。目的は、単に有用な情報を提供することではなく、顧客との間に継続的な関係性を築き、ブランドへの愛着(エンゲージメント)を高め、最終的には顧客が自発的にブランドを応援してくれるような「コミュニティ」を形成することにあります。
レシピ配信は有効な施策の一つですが、それを双方向にするためには、「顧客から醤油を使ったオリジナルレシピを募集するコンテストを開催する」「顧客の投稿を公式アカウントで紹介する」「ライブ配信で顧客からの質問にリアルタイムで答える」といった、顧客の参加を促す仕掛けが必要です。
高得点答案への改善指針 「双方向性」と「コミュニティ形成」を核に据え、具体的な施策を提案する必要があります。
- 関係構築の場の設定: SNSや会員専用サイトなど、顧客と継続的に接点を持つ場を設ける。
- 双方向の具体策:
- 情報収集・応答: 顧客からの質問や意見に丁寧に回答する。
- 参加促進: レシピ募集、フォトコンテスト、製品モニターなど、顧客が参加できる企画を実施する。
- 顧客間交流: 顧客同士が情報交換できるようなフォーラムやハッシュタグを設ける。
- 目的の明確化: これらの活動を通じて、顧客との関係性を深化させ、ブランドへの愛着を高め、継続的な購入(リピート)を促すという最終目的を記述する。
【モデル解答】 SNS等で顧客と双方向の関係を構築。顧客からの質問に回答したり、醤油活用レシピを募集・共有したりすることで、顧客との関係性を深化させ、ブランドへの愛着を高め、継続購入を促す。
第2部:合格答案のための戦略的フレームワーク
第2.1節:与件文の解剖学:言葉から戦略を読み解く技術
事例Ⅱの成否は、与件文をいかに深く、構造的に読み解けるかにかかっています。単語を拾うだけでなく、その情報が持つ戦略的意味合いを理解することが重要です。
SWOT分析による構造化 与件文を読む際には、常にSWOT分析のフレームワークを念頭に置き、情報を分類・整理する習慣をつけましょう。本事例であれば、以下のように整理できます。
- 強み (Strengths):
- 国産丸大豆100%使用、杉桶による伝統製法(高品質・差別化要因)
- 好調な直営店併設飲食店(顧客接点・ブランド体験拠点)
- 最終消費者向け販売のノウハウ
- 弱み (Weaknesses):
- 大手追随による無計画な多品種化(経営資源の分散)
- 戦略性の欠如
- インターネット販売への取り組みの遅れ
- 機会 (Opportunities):
- 消費者の健康志向、本物志向の高まり(高付加価値製品への需要)
- インターネット販売による全国への販路拡大
- インバウンド需要(ただし与件からの直接的根拠は薄い)
- 脅威 (Threats):
- 醤油市場全体の縮小傾向
- 大手メーカーとの競争激化
- 価格競争
この整理を行うことで、B社が採るべき戦略の方向性(強みを活かし、機会を捉え、弱みを克服し、脅威を回避する)が自ずと見えてきます。
情報の背後にある「なぜ」を問う 与件文に書かれている事実には、必ず出題者の意図があります。例えば、「なぜ杉桶という具体的な製法が書かれているのか?」それは、単なる製造方法ではなく、大手には真似のできない「物語」や「本物感」を象徴する、強力なブランディング資産だからです。「なぜ飲食店が好調だと書かれているのか?」それは、この飲食店が単なる販売チャネルではなく、今後の成長の鍵を握る戦略的拠点として活用すべき資産だからです。このように、一つひとつの情報の背後にある「なぜ」を自問することで、解答の深みが格段に増します。
第2.2節:一貫した戦略ストーリーを構築する
中小企業診断士試験の二次試験は、複数の設問から構成されていますが、これらは独立した問題ではありません。すべてが一つの経営課題に対するコンサルティング・レポートの各章に相当します 。したがって、すべての解答が一本の筋(戦略ストーリー)で繋がっている必要があります。
論理の連鎖を意識する ご提出の解答では、第2問(1)のターゲット(外国人観光客)と第2問(2)のプロモーション(観光情報誌)、第4問(2)のコミュニケーション(汎用的なSNS)の間で、論理的な一貫性が弱い、あるいは途切れている部分がありました。
優れた答案は、以下のような論理の連鎖で構成されます。 (第1問)B社の現状は、高品質な醤油という強みと、無計画な多品種化という弱みがある。 →(第2問(1))したがって、今後のターゲットはB社の強みに響く「食へのこだわり層」とし、製品は強みを活かせる高品質醤油に「選択と集中」する。 →(第2問(2))このターゲットにアプローチするため、プロモーションは専門サイトで行い、販売は飲食店の「体験価値」を通じて行う。 →(第4問)このブランド価値をネットで伝えるため、(1)「物語」を訴求するプレミアムブランド戦略をとり、(2)リピート促進のためにはSNSで顧客と「双方向の関係」を築きコミュニティ化する。
このように、前の設問の解答が次の設問の解答の前提条件となるように構成することで、答案全体に説得力が生まれます。
第2.3節:現代的なベストプラクティスを応用し、解答を差別化する
与件文の舞台は平成28年(2016年)ですが、求められているのは、現代においても通用する普遍的な戦略思考です。現実世界の成功事例から得られる知見を自身の知識としてストックし、それを答案に応用することで、他の受験生と一線を画すことができます。
「モノ」から「コト(体験)」へ B社の飲食店の価値を最大化する鍵は、「体験価値」の提供です。これは、現代のマーケティングにおける極めて重要な潮流です。例えば、酒蔵がレストランを併設して日本酒と料理のマリアージュを提供したり 、味噌蔵が古民家を改装したカフェで味噌を使ったスイーツを提供したりする事例は数多く存在します 。これらの事例に共通するのは、製品を売るだけでなく、製品が生まれる背景や文化、新しい楽しみ方といった「体験(コト)」を提供することで、顧客との強い絆を築いている点です。B社の飲食店も、単なる「食事処」ではなく、「ブランドの思想を体感できる大使館」として位置づける視点が求められます。
デジタル・ストーリーテリングの力 第4問で問われたインターネット戦略は、まさに現代のD2C(Direct to Consumer)ブランドの成功法則そのものです。成功しているD2Cブランドは、単にECサイトで商品を販売しているのではありません。彼らは自社のウェブサイトやSNSを「メディア」と捉え、製品の背後にある「物語」を伝えることでファンを創造しています 。B社がオンラインで伝えるべきは、醤油のスペックではなく、「杉桶で醤油を育む職人の一日」や「創業から受け継がれる想い」といったストーリーです。この視点を持つことで、第4問の解答は、単なる戦術の羅列から、魂のこもったブランド戦略へと昇華します。
「コミュニケーション」から「コミュニティ」へ 第4問(2)で求められた双方向コミュニケーションの究極の目標は、「コミュニティの形成」です。企業が情報を発信し、顧客がそれを受け取るという一方通行の関係から、顧客が主役となり、ブランドを介して他の顧客と繋がるような場を創出することが、長期的な顧客ロイヤルティを確立する上で不可欠です。これは、企業が顧客を管理するのではなく、顧客と共にブランドを育てていくという、現代的なマーケティング思想の現れです。
結論:合格点へのロードマップ
今回の分析を通じて、ご自身の解答の強みと、克服すべき課題が明確になったことと存じます。合格レベルの答案に到達するためには、以下の3点を常に意識して学習を進めることを推奨します。
- 与件文への忠誠: 全ての思考の出発点は与件文です。書かれている事実を正確に読み取り、特に制約条件は絶対に遵守するという基本を徹底してください。SWOT分析はそのための強力な武器となります。
- 戦略の一貫性の追求: 個々の設問に個別最適で答えるのではなく、企業全体を導く一本の戦略ストーリーを答案全体で描き出すことを目指してください。各設問の解答が、次の設問への橋渡しとなるように意識することが重要です。
- 戦略的思考の抽象度向上: 「レシピを配る」「食事をしてもらう」といった戦術レベルの思考から一歩引いて、「なぜそれを行うのか?」という戦略的目的を常に考える癖をつけてください。「体験価値の提供」「デジタルでの物語化」「コミュニティ形成」といった現代的な戦略パターンを自身の引き出しに持つことで、解答の次元を高めることができます。
おわりに
52点という結果は、私の思考がまだ戦術レベルに留まっており、与件企業の置かれた状況を深く理解し、一貫した「戦略」を構築する視点が欠けていることを教えてくれました。
今回の失敗分析を通じて見えた、
- 与件文への忠誠(特に制約条件!)
- 全設問を貫く戦略の一貫性
- 思考の抽象度向上(戦術→戦略へ)
この3つを胸に、また今日から過去問演習に取り組んでいこうと思います。
この失敗談が、あなたの成功の糧になることを心から願っています。最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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